2019-06-14
おいてけぼりの魂
あるとき、西洋人の探検家たちがポーターを雇って南米を冒険旅行しました。一行が勇んで未開の地を進んで行くと何日かしてポーターたちが足を止めてしまいました。
彼らはひたすら円陣を組んで座ったまま動こうとしません。お金ほしさのストライキかというとそうでもなさそうです。ところが、せかしもしないのに、二日ほどたつと、彼らは急に歩きはじめました。
いぶかしく思った探検家がたずねると、「あなたがたがあまりに速く進むので、魂がついてこれなかった。だから、魂が追いつくのを待っていたんだ」とのこと。
以上は著名な心理学者であった故河合隼雄氏がNHKの番組の中で紹介した実話です。物の豊かさや便利さの中で、ついつい心のゆとりをおろそかにしがちな現代人を皮肉っています。
もっとも、この番組が放送されたのは今から20年程前のことで、南米の探検家の話はそれよりずっと前のことです。
令和となった今日、現代人の心のありようが、以前より良くなったかといえば決してそんなことはありません。むしろ、何かに追われるように、せわしなく日々を過ごしている人の数は増えているように思われます。
今後、人工知能を応用した自動運転技術、脳科学や遺伝子操作などによる新薬の開発や病気の治療、新たな素材の開発、高度な通信や運輸網などの発達などにより、科学文明は加速度的に進化すると言われています。
はたして、それらは人々の心にゆとりをもたらしてくれるでしょうか。むしろ逆のように思われます。例の南米のポーターのように、魂が追い付くのを待つことが必要ではないでしょうか。